体操と裁判

体操経験のある弁護士が、裁判になった事案の検討を通じて、体操指導者の注意義務について考えるブログです。

③高校生が、部活動で、鉄棒の両脚中抜き下りの練習により、傷害を負った事案(責任肯定)

③浦和地判昭和56年8月19日(判時1023号92頁)

 

1.事案の概要
 昭和41年8月10日、高校1年生のXは、他校での練習中、鉄棒の両脚中抜き下りを実施する直前、鉄棒から手が離れマット上に頭部から落下し、頸髄損傷等の傷害を負った。 

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閑話休題(指導者の注意義務を考慮する上での一般的要素)

1.閑話休題

そもそも指導者の責任は、その指導者に「注意義務」があり、その「注意義務」を怠った場合に認められることになります。

 指導者の注意義務の内容は、事案毎に個別具体的に設定されることになりますが、一般的なポイントを整理してみたいと思います。

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②高校生が、部活動で、鉄棒の後方屈伸二回宙返り下りの練習により、傷害を負った事案(責任否定)

②広島地判昭和53年5月23日(判時911号148頁)

 

1.事案の概要

 昭和47年8月18日、高校3年生のXは、Y教諭の出身大学で鉄棒の後方屈伸二回宙返り下りを練習を行い、ウレタンマット上に頭部から落下し、頸髄損傷等の傷害を負った。

 裁判所は、

①「Y教諭が高校生Xに鉄棒の後方屈伸二回宙返り下りを練習させたこと」について、Y教諭による高校生Xの体調管理に問題がなく、高校生Xの技能が十分であり、段階を経た練習を行ってきたこと等の事情から、Y教諭の過失を否定し、

②「Y教諭が事故当時危険防止措置を採っていたか否か」についても、マットを十分使用し、補助者2名が付いていたことから、Y教諭の過失を否定した。 

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①高校生が、部活動で、吊り輪の後方二回宙返り下りの練習により、傷害を負った事案(責任肯定)

 ①山形地判昭和52年3月30日(判時873号83頁)

 

1.事案の概要

 昭和43年7月1日、高校1年生のXは、部活動で、吊り輪の後方ニ回宙返り下りの練習を行い、床に敷かれたセーフティ・マット上に頭部から落下し、頚椎脱臼の傷害を負った。

 裁判所は、Y高校等の安全保持義務違反を認めつつ、Xにも「危険な行為を避け、自らの生命、身体の安全を保持すべき義務」に違反した過失があるとして、過失相殺を認め、損害額を7割減額した。 

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検討する裁判例

 体操による事故について、私が確認することができた裁判例は次の13件で、指導者の注意義務違反を肯定した事案が12件、否定した事案が1件です(H30.1.17時点)。

 いずれも、中高生が頭部又は首を強打し重い傷害が残った事案という点で共通します。

 以後、古い順に一つずつ検討します。 

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ご挨拶と本ブログの目的

 本ブログでは、体操経験のある弁護士が、事故が起きて裁判となった事案を通じて、体操指導者の注意義務について考えてみます。

 

 体操は怪我の多いスポーツです。

 もちろん、正しく練習すれば大きな怪我には至らない場合がほとんどですが、宙返りなど頭を下にする場面がある競技特性上、事故が起きた場合に大きな傷害を負ってしまう可能性があります。

 本ブログでは、体操による事故によって大きな傷害を負った結果、本人あるいはご両親が、体操指導者や設備の提供者(多くは学校)に対して、損害賠償を求めて裁判を提起した事案を通じて、体操の指導者や設備の提供者にどのような注意を払う義務(注意義務)が課せられていて、どのように義務を果たせばよいのかを考えてみたいと思います。